癒しをもたらすホスピタル
 
 この秋、米国アラバマ州にあるユーチパインズというライフスタイルセンターを訪れてきた。ここは、本書でも連載中の自然療法の医師アガサ・スラッシュ夫妻が約30年前に創設された36万坪ほどの土地に建てられた施設で、自然療法による療養所とそれらに関する教育機関がある。ライフスタイルセンターの庭には患者が寝そべって日光浴ができるようにハンモックや寝椅子、ゆり椅子などが置いてあり、そこに身を横たえれば暖かい陽射しを浴びながら美しい花々や緑に目を楽しませることができる。目の前にある巣箱にはハチドリが羽を鳴らせて飛んできて、巣箱に添えられている蜜の容器から蜜を吸っていく様子が見られる。

 わたし達日本人が訪れたときにはカンジタ症を患っているという女性が療養に来ていて、少しく言葉を交わした。彼女の風貌は一見してこのような疾病に至らせたこれまでの生活が偲べるようなものであったが、この場所で手厚いケアを受けながら、人間としてのささやかな“自信”のようなものも生まれているのが感じられた。

 ユーチパインズでは患者1人に1人の看護人、2〜3人の患者に対して一人の医師と水治療法士がついてケアにあたる。明るく清潔な病室、栄養と彩り豊かな菜食料理、個々の症状に見合ったハーブ療法及び水治療法などが提供される。もてなしとも言える程の丁寧なケアと、これほどの暖かい手当てを毎日受けるなら、たといどんなに低いセルフイメージを持っている者でも自分は「人間の尊厳を守られ」「健やかで幸せに生きる事を望まれている」ことに目覚めないはずはない。さらに患者は「自分は偉大なる創造者によって創られたものであり、必要とされて生かされ、そして愛されている存在である」ことを聖書から教えられる。そして新しい価値観と新しいライフスタイルを学んで我が家に帰って行く。まさに心身共なるニュースタートの生活を始めるためである。時には、そこで命の最後の灯火が消える患者もいるが、死は単なる眠りであり、再びよみがえる朝があることを知らされる。ああ、なんとすばらしいことであろうかと、キャンパスを歩きながら感動の日々であった。そういえば英語では「もてなし」をホスピタリティと言うのを思い出した。傷ついた心と体を真に癒すホスピタルがわが国でも見られることを心から祈るものである。
トータルへルス誌16号 巻頭言より
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