病―心をわかちあう好機とせよ 

 心臓のバイパス手術は、アメリカでは年間260億ドルを稼ぐ一大市場だそうだ。だが、薬もメスも使わず、食事療法(低脂肪の菜食)、禁煙、運動、ストレス管理、そして愛と親密性を育むサポートグループなどによって心臓病の患者を治療している医師が、昨年の「ライフ」誌「その世代を代表する50人」に選ばれた。ディーン・オーニッシュ博士だ。ご存知の方も多いことであろう。25年前に始めたこの治療は多くの実績を上げ、10年前からは国立衛生研究所がフォローアップを行い、彼の治療効果は年を追うごとにますます高くなっている。統計では、この治療法により3週間から4週間後には約90%の患者の胸痛が和らぎ、心血管の流れが改善されるという。現在では、大手保険会社40社が、外科手術にかわる治療法として給付対象に加えている。心臓病治療の中では、彼の提唱する治療法が主流となる日も近いのではないかと言われているようだ。

 彼の治療の鍵は「愛―心のすべてを分かち合う」である。彼のもつサポートグループに参加し、患者は病気や、病気のために起こった暮らしの変化に対する気持ちを話すように励まされる。オーニッシュ博士は、サポートグループへの参加がガンの進行やその他の病気の回復に影響すると患者に信じさせたことは一度もないが、心のすべてを分かち合えた人々の免疫系には確かに著しい変化が見られると語っている。
そして、始めは心臓病治療が目的だった人々も愛情に満ちた関係がいかに幸福であり、人生を豊かにしてくれるかに気づくと、より良い人生を生きるために博士の勧めを実践するようになるようだ。

 人は病気になると「治す」ということばかりに思いが集中しがちだ。当然のことである。しかし、「治す」という過程においても、患者と彼をサポートする人々の間に、「愛情に満ちたさらに親密な関係をつくる」努力がみられるなら、それは、回復の力になるばかりでなく、病気や不自由さを得た事が、さらに意味深く幸いなものとなるであろう。

 参考図書「愛は寿命をのばす」  ディーン・オーニッシュ著(光文社)
トータルへルス誌 第3号 巻頭言より
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