天然讃歌―白柳の樹皮とアスピリン
 アスピリンは世界で最も消費量が多い薬で、年間千億錠の消費がある。これは世界中の人間が毎年20錠ずつ飲んでいる計算になり、わが国での場合をみても、国民1人あたり毎年6錠ずつのアスピリンを飲んでいることになる。世界中どこでも「痛み、熱にはアスピリン」というのが定番のようだ。ところでアスピリンは、昔から鎮痛、解熱に効果があることで知られていた柳の研究を通して生み出された薬である。人々は紀元前より、歯の痛みには柳の枝をかじり、体の痛みや熱にはその樹皮を煎じて飲んでいた。自然医学の父ヒポクラテスもまた、白柳の樹皮を鎮痛、解熱に、葉を分娩の痛みの緩和に用いたと言われている。

 19世紀中頃、柳の樹皮から薬効成分としてサリシンを分離し、サリシンの分解物であるサリチル酸が、リウマチなどの痛みに良く作用することが確認され、合成サリチル酸が作られた。しかし、それはひどい苦味があり胃腸障害などの副作用をもたらしたため、1897年、副作用が比較的弱い薬剤としてアセチルサリチル酸が合成され現在のアスピリンが誕生した。

 アスピリンは市販薬として手軽に入手できるので、全使用量が多いこともあり、副作用による被害者数は現在でも数多く、米国ではこの薬による胃腸障害などで、年間約10,000人が死亡している。その使用には慎重でありたい。
 一方、アスピリンの産みの親である柳には副作用はほとんど無く、今でも自然療法の世界では大いに用いられ重宝されている。柳に含まれるサリチル酸もアスピリン中のそれも、効力においては同等の力を発揮するが、合成したものは副作用をもたらし、天然のままであれば副作用はほとんど見られない。なぜか合成薬はとかく副作用がある。ハーブなど、天然素材の中には、人間には決して模倣できない、あるいは発見されていない何らかの物質があり、そのゆえに副作用は見られなく、人体に優しく作用しているのかもしれない。人間の体は、植物が持つ癒しの要素をそのままの形で取り入れるほどに、その効果も最大に受けることができるように創られているような気がする。自然界には完全とも言えるほどに癒しの要素が満ちていることに感嘆する。感謝し、散在する薬草の数々を賢く活用したいものである。

参考資料
http://www.bayer.co.jp/byl/cc/history/ver1.html
トータルへルス誌25号 巻頭言より
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