こころ―見逃せない飲食の影響
 青少年による痛ましい事件が後を絶たない。被害者家族の心痛も、そして加害者家族の心の痛みもいかほどであろうかと胸が痛む。どのような事件でもそうであるが、事件後は加害者の「精神鑑定」「生育暦」そして普段の興味や行動が綿密に調査される。

 しかし、事件が発生した幾つかの要素の中に、警察やマスコミが調査しない、あるいは関心さえ持たれないが極めて重要な要因がある。それは彼らの「栄養状態」である。岩手大学教育学部の大沢博元教授は、彼の著書「食事で治す心の病」(第三文明社)の中で「まさかと思うかもしれないが、栄養と犯罪は大きく深く関わっているのである。(中略)尋常な人がいきなり凶暴な振る舞いをする、いわゆる”キレる”という行動が特に栄養と関係が深い。栄養不足によって脳の正常な機能が低下すると、思考はもちろん停滞する。自分の行動がどういう事態をもたらすかということを、予測したり想像したりできなくなる。否定的な感情が支配し、攻撃行動が展開される」と述べている。

 彼が、ある少年院生九十名を対象に調査した結果、入所前の清涼飲料水の摂取量は、一般の同年代の高校生よりも多く、毎日六本以上飲んでいる高校生は非行少年では?』とも論じ、砂糖の摂取量とキレる関係も密接であることを示唆している。科学誌『メディスン・トゥデイ』の編集長、ジェローム・バーン氏は、「米国では非行少年の食事から糖分と脂肪分、添加物を大幅に減らしたところ、反社会的な行為が劇的に減ったとの調査結果がある」と述べている。

 軟弱な建材ではしっかりした家屋造りが望めないように、健康な頭脳と肉体造りも貧弱な飲食からは望めない。脳もまた体の一部であり、他の器官と同様に飲食の影響をそのまま受けることを忘れてはいけない。事実、ごく最近の研究で、多動症と各種アレルギーの子供たち三百人に四週間、合成保存料と着色料が含まない食事を与えたところ、その期間は症状の軽減がはっきりと見られ、普段の食生活に戻ると以前と同じ状態になったという。(1)カウンセリングや接し方などに治療の焦点をおいている自閉症も、ある種の食品を除去すれば改善されるという研究も出てきている。(2)

 そして近年、科学的に益々明らかにされてきたのは、人のために備えられた食物を最も自然な状態で食することが最適、かつ豊富な栄養を人体に提供するということだ。大人も子供も頭脳が健全に働き、穏やかで落ち着いた心の状態を得るべく、最良の栄養を摂ることに国民も政府の意識も、もっと向けられることを願うものである。
参考資料
(1) http://www.newswise.com/institutions/view/?id=5481 
(2) http://www.choicetheory.net/kcc/autismfaq.html
トータルへルス誌26号 巻頭言より
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