春爛漫 ―見舞いの言葉  

 米国では代替医療が盛んになり、健康市場に注がれるドルをめぐって、病院同士の競争がますます激しくなってきている。そんな中でコロラド州には、病院がより魅力的になるように指導をする<病院経営コンサルタント業>が登場しているそうだ。指導を受けた病院では玄関には制服を着たドアマンを置いて患者を迎え、廊下には絨毯が敷かれ、医師や看護婦たちは患者への「気配り訓練」を受け、食事には毎回一輪の花が添えられるといった具合である。これらはひとえに経営向上を目指してのものだったが以外に面白い事実が浮かび上がってきた。米国のデラウェア大学の地理学者である、ロジャー・ウルリッチ氏は、ペンシルバニア州ある病院の看護婦たちに頼んで、胆嚢の手術で入院した患者の術後の状態を詳細に記録してもらった。8年間にも及んだ調査は、患者の術後の痛みや不快、鎮痛剤や抗不安剤の服用量、回復に要した日数、そして、彼らの病室の様子などである。これらのデータ-を分析した結果興味深い事実がわかった。それは、患者の回復には、病室からの眺めが大きな影響を及ぼしているということである。鎮痛剤の服用も多く入院期間も長かった患者たちが入っていた病室からの眺めは、味も素っ気もない無機物のレンガの壁だけであり、一方、鎮痛剤の服用量も少なく、回復も早かったグループの患者たちが見ていたのは緑の並木である。この事実を知ったウルリッチ氏は、病院の設計者に建物の位置や環境など「病室からの眺め」までに気を配るように忠告していると言う。

 並木の緑が患者の回復力を増したように、親しい友が病室に運んでくる一輪の花もまた、病む者の心を和ませ、愛する者の優しさを伝え、そして回復に力を添えるであろう。
 この季節、野や山に目を向ければ、つつじ、すみれ、木蓮、チューリップ、まさに春爛漫である。一輪の花が見舞いの主と共に「早く元気になってね」と語っているように、山々を彩る花々も、若葉をつけたどの木々も、愛するものたちの回復を願う贈り主からの見舞いの言葉を語っているような気がする。

参考図書 :内なる治癒力 ―心と免疫をめぐる新しい医学――スティーブン、ロック他著 創元社
トータルへルス誌 第8号 巻頭言より
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