糖尿病性神経障害からの解放
糖尿病性神経障害からの解放(症状改善例集No.42)
報告:アガサ・スラッシュ(米国自然療法機関ユーチパインズ医師)
ユーチパインズには、あらゆるタイプの患者さんが来られますが、概して、現代医学による治療をし尽くし、それでも思うような回復が得られずに悩んだ末、こちらのことを知り、一縷の望みをかけて訪れるというケースが多く見られます。ここに紹介する症例も、同様のケースです。このような過程で来られる方は、かなり重症になっていますが、イネッツさんの場合もまた同様でした。イネッツさんは50代後半の女性でした。ユーチパインズを訪れた時には、その激痛のために表情は歪み、大変な苦痛の様子が一目で見受けられました。大腿部の裂かれるような痛みと、全身に走る、焼けるほどの強い痛みがあり、我慢ができないということでした。
ユーチパインズを訪れる前
イネッツさんは、過去1年間で入院2回、加えて、体中に走る強度の痛みは、もう何分間も我慢ができないほど痛烈で、救急車を呼ばざるを得なかったのが4回もあったということでした。その痛みは、強力な痛み止めか、麻薬性の鎮痛薬でなければ、和らげることは不可能だったということです。いくつもの病院を渡り歩いても、確かな診断と治療を受けることができなかったようです。そのために、病状はかなり辛い状態まで進んでいました。
イネッツさんの主治医は、総血球計算値と血糖値検査を用いて彼女の病状を診察しました。しかし、絶食時の血糖値はわずか114mg/dlで、ヘモグロビン値は14.4gであることから、血糖値の問題を見過ごしてしまいました。医師は彼女を更年期性のヒステリーである以外は正常(健康である)と結論し、エストロゲン(女性ホルモンの一種)を処方するのみにとどまりました。しかし、ホルモン剤は彼女の症状をさらに悪化させただけで、何ら改善が見られなかったため、2ヶ月後には服薬を中断しました。その後、数々の薬品が処方されましたが、どれも彼女の苦しい症状を緩和することはありませんでした。
多血症による血行不良
彼女がユーチパインズに来てから、私たちがまず行ったことは、綿密な診察でした。私たちが最初に下した診断は、多血症(貧血の逆)でした。彼女のヘモグロビン値は14.4gで、一般病院での基準としては正常値の範囲ですが、私たちが理想としているヘモグロビン値は、通常の低地で暮らす女性であれば10.5g~12.5g/dlです。この数値より高ければ高いほど、疲労感が増します。そこで、赤十字に献血することを勧め、実行しました。その結果、ヘモグロビン値は14g以下となり、血液の循環も改善されました。血液が濃すぎると、比重も高くなり、循環が悪くなるからです。
糖尿病性神経障害
イネッツさんの激痛が、糖尿病と関連があるかもしれないと思われたので、血糖値の測定もしました。朝食2時間後に血糖値を測ると、132mg/dlでした。私どもでは、食後2時間での血糖値が100mg/dlを上回った場合は糖尿病を疑うことを常としていましたので、彼女の場合も糖尿病と診断しました。彼女の痛みや不快感は、全て糖尿病性神経障害がストレス多血症によって複雑化されて起こっていたのでした。ストレス多血症は、赤血球過多が原因です。赤血球製造過多は、病気や生活習慣、感情面によるストレスによって起こり、循環が遅延するように働きます。
イネッツさんの症状は重く、思考も支離滅裂でした。痛みをこらえることで精一杯なので、それ以外のことは、身のまわりのことを自分で何かしようとさえも考えられもしないようで、自分の飲み水を水差しからコップに1杯用意することもできないほどでした。ですから、教会に出席するのはおろか、療養者のためになされる医師の講義の間、わずか20分間続けて座っていることすら不可能でした。就寝時間も痛みに苦しめられて、ゆっくりと休むこともできない状態でした。それでも、私たちをできるかぎり煩わせまいとして、痛みと辛さに耐えていましたが、明け方の4時半から5時頃には必ずのように我慢ができなくなって助けを求めるのでした。「何とかしてください。もう1分もこらえられません」と訴えるのです。
ハーブ療法、水治療法
彼女が耐え切れなくなるたびに、私たちは沈静効果や鎮痛効果のあるハーブ茶を与え、さらに低温浴(35℃程度の湯につかる療法)を施しました。
食事療法
食事は、できる限りマイイノシトールの豊富な食材を使いました。大豆をよく煮たもの、その他の豆料理、キャベツやブロッコリーもたくさん出しました。果物は、グレープフルーツなどの、かんきつ類をたくさん食べていただきました。
徹底した食事改革と運動の継続
イネッツさんは、私たちの指示するところに非常に協力的でした。自宅で療養している時には、適切な食事については誰からも教わることができなかったこともあると思いますが、これほど重症になっても、通常の食事を続けていたようです。ユーチパインズに来てからは、肉、卵、ミルク、そして甘いものを除いた食事でしたが、彼女は「痛みが和らぐのであれば、どんなことでもする」という大変な決心で、こちらの指導によく従いました。毎日の散歩も初めは辛そうでしたが、スタッフが励まし、一緒に歩いたので続けられました。その努力の成果は間もなく見え始め、あれほど辛かった痛みは和らいできました。体重も減ってきました。
1年ぶりの笑顔
ユーチパインズに来てから5週間目を迎えた頃には、痛みはかなり楽になってきて、身体を動かすのも苦ではなくなりました。そして自分から夫に電話をして「こんなに良くなった様子を見せたいのでぜひ来てほしい」と呼びました。彼女の家からユーチパインズまでは、560㎞もあります(車で12時間ほど)。ご主人は、電話の向こうから聞こえる妻の声が、本当に嬉しそうに弾み、今までとあまりに違っているので、ぜひともその姿を見たいと、長距離をものともせず、車を走らせてやってきました。
イネッツさんはご主人が到着したと聞くや、ライフスタイルセンターの前庭に立ち、手を振り、ご主人の名前を呼びながら近づいていきました。そして、満面の笑顔でご主人を迎えたそうです。ご主人はイネッツさんの手を握り、肩を抱きながら、私を探し当てて部屋に入ってきました。そして彼は大きな笑みを浮かべて「先生、私は1年ぶりに妻が笑うのを見ました!」と言いました。自宅にいた頃は、あまりの辛さに、1年以上も笑いを浮かべたこともないほどだったということでした。
速やかな改善
イネッツさんの痛みが楽になるにつれ、歩く距離を延ばすように指示しました。そして8週間後には13kmもの距離を毎日歩くようになりました。体重は、来所以来5.5㎏の減量を達成して、標準体重になりました。痛みの原因だった糖尿病神経障害は60~70%改善しました。
その後、彼女は食事に細心の注意を払い、どんなにおいしそうな料理でも、どんなに空腹であろうとも、学んだ食事計画に沿わない限り決して口にしませんでした。イネッツさんはその後ユーチパインズには6ヶ月間滞在しましたが、全期間、食事には細心の注意を払いました。そして、教えられた食事計画に100%沿って改善に励みました。
彼女の体験から学べること
第一は、彼女が速やかに回復したのは、厳格な食事療法を忠実に続けたことです。また、痛みがありながらも、運動プログラムによく従いました。彼女のこうした姿勢は、激痛による過酷な苦しみが続いたことによって、回復に対する望みが一層強くなったからだと思います。
言い換えれば、療養のためには、食事の好みや欲求を一切捨ててしまう気持ちさえあれば、かなり進んだ状態からの回復も可能だということです。その結果、改善を得られた喜びは非常に大きなものです。
第二は、糖尿病になった場合、血糖値がそれほど高くなくても、そのような時期が長く続くと、重い神経障害を招くことがあるということです。また、ストレス多血症(ストレスが原因で濃縮型血液になり、身体に様々な障害の出る病)は慢性病を複雑化させることが多々あります。慢性の水分欠乏状態と高濃度血液は、糖尿病を併発することがあります。従来の医学療法では、これといった治療法がなかった糖尿病性神経障害は、自然療法と生理学的な療法を用いることによって治療が可能なのです。
- 2012年09月09日